アメリカ生活、12年。
皿洗いからミシュラン職人へ駆け抜けた僕の、
嘘のような本当の話。
帰国を目前に控えた今、
その全軌跡を六話に分けて公開します。
【目次】
- 第1話:【幕開け】「行きたくない」から始まった。26歳、絶望の渡米。(2008-2014)
- 第2話:【屈辱の皿洗い】言葉はスペイン語、仕事は股間を触られること?(2014-2016)
- 第3話:【転落と覚醒】アメリカン寿司の洗礼と、保健所が来た金曜日。(2016-2018)
- 第4話:【ミシュランとコロナ】天国から地獄、そしてゴーストキッチンへ。(2019-2021)
- 第5話:【マイアミの奇跡】血だらけの年越しと、二度目の星。(2021-2024)
- 最終回:【決意】運命のバトン。新宿「みやこんじょ」二代目へ。(2024-2026)

【第3話】絶頂からの強制終了。レストランが封鎖された金曜日
3年間の「お礼奉公」を終えた僕に、新たな転機が訪れました。
知り合いの日本人ヘッドシェフのレストランで
寿司職人としてフルタイムで働く機会を得れたのです。
2017年。移籍したその店は、日本の伝統的な握りとは一線を画す「フュージョン・スタイル」の寿司店でした。
「アメリカン・スシ」の奥深さを知る

正直、それまでの僕はどこかでフュージョン(創作寿司)を侮っていたのかもしれません。
それはカリフォルニアロール、スパイシーツナや天ぷらロールといった
ごくありふれたアメリカならではの寿司しか知らなかったからです。
でも、実際に飛び込んでみると、そこには全く新しい世界が広がっていました。
日本の伝統的な食材や調味料を駆使し、
見たこともないようなロール寿司にまとめ上げる。
そのお店では魚のオーダーから捌き方、
さらには在庫管理やマネジメントまで、
ここで僕は寿司職人としての「土台」を徹底的に叩き込まれました。
何より嬉しかったのは、スタッフとの関係です。
前職の「洗礼」とは打って変わり、この店の中南米のスタッフたちは
日本人である僕をプロとしてリスペクトしてくれました。
「環境が違えば、こうも人は違うのか」 忙しすぎて目が回る毎日でしたが、
仕込みが間に合わないことが一番のストレスに感じるほど、
僕は仕事に没頭していました。
しかし、そんな充実した日々に、少しずつ「影」が忍び寄ります。

予兆、そして「その時」は突然やってきた
働き始めて2年が経とうとした頃、給料の支払いが遅れ、
仕入れ業者への未払いが目立つようになりました。
「何かおかしい……」
そう思っていた矢先、店からお酒の提供ができなくなったと告げられます。
理由は誰も教えてくれません。
看板メニューのカクテルもビールも出せない。
客足は目に見えて遠のいていきました。
そして、運命の金曜日。
ランチラッシュの真っ只中でした。
突然、数人の政府関係者(?)が店内に踏み込んできたのです。
「営業を停止してください。今すぐ、お客さんを全員外へ出しなさい」
食べていたお客さんは強制的に帰され、
店の入り口には封鎖の宣告。
ついさっきまで包丁を握り、
マネジメントを学び、
自分の成長を実感していたはずの場所が、
一瞬にして消えてしまいました。

「日本人寿司職人」というカードの威力
突然職を失った僕は、
とりあえずNYに住む知り合いの寿司屋へ
「職場体験」に行ってみることにしました。
当時の僕にとって、NYはアメリカ最高峰の戦場。

「僕なんかが通用するわけない」
と、NYで働く自信はこれっぽっちもありませんでした。
ところが、そこで意外な現実を突きつけられます。

「龍くん、うちに来ないか?」
NYの一流有名店から、まさかのオファー。
「若くて、ビザ(永住権)を持っていて、即戦力になる日本人寿司職人」
僕が皿洗いに明け暮れていた3年間の裏側で、
アメリカでの「寿司職人」の価値は、
僕の想像を絶するレベルにまで跳ね上がっていたのです。
結局、自信のなさと住み慣れ始めたワシントンD.C.を移動することにビビって
そのオファーはお断りしましたが、
ここから僕の人生に「オファーの連鎖」が始まります。

ミシュランの星が降ってきた
地元に戻り、心機一転、
別の老舗「おまかせ」レストランで働くことを決めました。
このお店は職を失った直後から色々と声をかけていただき、
流行っているお店でした。
職も無事に決まり働くまで時間もあったので意気揚々と
日本へ一時帰国することに。
ところが、その一時帰国中に、その店が
従業員から訴えられた
というニュースが飛び込んできます。
すごいタイミング。「虫の知らせ」か、
帰国したときにはなんとその話も白紙に。
またもや無職。
しかし、運命は僕を見捨てませんでした。
NYでミシュランを獲っている有名店が、
僕の地元ワシントンD.C.に2店舗目を出したばかり。
オーナーから直々に「働かないか?」と連絡が来たのです。
客単価200ドル以上の高級店。
プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、
2019年8月、僕はその扉を叩きました。
働き始めて2ヶ月目。
D.C.で初めてのミシュランガイドが発表されました。
結果は、一つ星獲得。

僕が何かをしたわけではありません。
でも、気づけば僕は
「ミシュラン店の職人」
という肩書きを手に入れていました。
これからこの店で、カウンターに立って、自分の寿司を極めていくんだ——。

そう決意した僕の背後に、
2020年という「すべてを崩壊させる年」が忍び寄っているとは、
微塵も思っていませんでした。

(つづく:第4話「コロナでの全喪失と、プライドを捨てたゴーストキッチン」)
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