アメリカ生活、12年。
皿洗いからミシュラン職人へ駆け抜けた僕の、
嘘のような本当の話。
帰国を目前に控えた今、
その全軌跡を六話に分けて公開します。
【目次】
- 第1話:【幕開け】「行きたくない」から始まった。26歳、絶望の渡米。(2008-2014)
- 第2話:【屈辱の皿洗い】言葉はスペイン語、仕事は股間を触られること?(2014-2016)
- 第3話:【転落と覚醒】アメリカン寿司の洗礼と、保健所が来た金曜日。(2016-2018)
- 第4話:【ミシュランとコロナ】天国から地獄、そしてゴーストキッチンへ。(2019-2021)
- 第5話:【マイアミの奇跡】血だらけの年越しと、二度目の星。(2021-2024)
- 最終回:【決意】運命のバトン。新宿「みやこんじょ」二代目へ。(2024-2026)

【第2話】包丁を隠され、股間を触られ……ラテンの洗礼と「皿洗い」の3年間
2014年4月、アメリカ到着。
僕をスポンサーとして受け入れてくれた日本食レストランでの生活が始まりました。
僕には一つの「武器」がありました。
それは、渡米前にペルーで1年間ボランティアをしていた時に習得したスペイン語です。

厨房のシェフたちは中南米出身のはず。
英語よりもスペイン語の方が、
彼らの心に深く入り込めるはずだ。
そう確信していた僕は、
初日からフルスロットルで仲良くなろうと努めました。
日本人スタッフは僕一人。
ここで孤立したら3年間の契約期間が地獄になる……。
その必死さが、良くも悪くも裏目に出ることになります。
「いじり」が「いじめ」に変わる境界線

スペイン語でジョークを飛ばし、
必死に食らいついた結果、僕は彼らに
「こいつは、何をしても怒らない、めちゃくちゃ冗談が通じる日本人の若造」
として認識されてしまいました。
そこから始まったのは、
幼稚で執拗な「洗礼」の日々です。
- 道具の紛失: いざ仕込みを始めようとすると、さっきまであったはずの自分の包丁が隠されている。
- 仕込みの妨害: 寿司に必要なネタの準備をしている最中に、わざと邪魔をされる。
- 謎のスキンシップ: 服の上からですが、股間を触ってくる奴までいました。
(後々他の人に相談したらラテンで冗談でも股間を触るは相当ヤバい事らしい)。
ガチギレしたことは一度や二度ではありません。
でも、彼らには通じない。
「こいつ怒ってるぜ、ハハハ!」と笑われるだけ。
「ああ、こいつらに何を言っても無駄だ」
途中から僕は、怒るエネルギーをすべて仕事に向けることに決め、
彼らを相手にするのを諦めました。

職人への道は遠く。「皿洗い」に始まり「皿洗い」に終わる
さらに追い打ちをかけたのが、ポジションの壁です。
厨房や寿司カウンターで働くラテン系スタッフたちは、
自分のポジションを奪われないよう、
僕に仕事を一切教えてくれません。
「ここは俺たちの場所だ」
と言わんばかりに、僕が少し手伝いに入ろうとすると、
ガヤガヤと弾き出される。
当時の僕はイエスマンとしてテキパキ動き、
何でもやりましたが、最初の数ヶ月はひたすら皿洗い。
最終的にそれが「いいように使えるヤツ」と認識されました。
3年契約の後半、ようやく寿司の技術を磨けるかと思った矢先、
今度は皿洗いスタッフが突然バックレました。
「龍、悪いけどお前、皿洗いに入ってくれ」
結局、僕のアメリカ生活最初の3年間は、
皿洗いで始まり、皿洗いで終わることになったのです。

ロールの練習してました

レインボーロール
色々握り
「辞めないでくれ」という最高の勲章
12月の繁忙期は朝4時から出勤。
休みは週に1日あるかないか。
それでも僕は腐りませんでした。
むしろ「最初はこれくらい苦労したほうが、後でいいネタになる」
とさえ思っていました。
そして迎えた、3年契約満了の日。
かつて僕に「辞めないでくれって言わせてみろ」と言ったオーナーが、
本当に僕を引き止めに来ました。
「龍、辞めないでくれよ。」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で一つの大きなゴールを達成した感覚がありました。
「お礼奉公は終わった。自分の実力でこの3年間生き抜いたんだ」
本来ならここで次の仕事まで2ヶ月の休暇を取り、日本へ帰る予定でした。
でも、オーナーの熱烈な引き止めにより、
僕は帰国をキャンセルしてギリギリまでその店で働くことにしました。

周りからは「もっと早く次へ行け」と言われましたが、
当時の僕はまだ知らなかったのです。
カリフォルニアロールの時代が終わり、
アメリカで空前の「本物の寿司ブーム」が始まろうとしていることを。
そして、日本人寿司職人の価値が、
僕が思っている以上に跳ね上がっていることを。

(つづく:第3話「レストランが突然閉鎖!?職を失った金曜日と、NYからの予期せぬオファー」)
第一話はこちらから
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